目次
はじめに
初対面の人と話す、と聞いてあなたはどのようなイメージを抱くでしょうか?
不安や恐怖のイメージが沸き起こるでしょうか?
わくわくするような楽しいイメージが沸き起こるでしょうか?
それとも、とくに何のイメージもわかないでしょうか?
初対面の人が苦手であろうとなかろうと、私たち現代人は初対面の人たちと話す機会が次から次へと押し寄せてきます。私たちは毎日のように通勤、通学の中で無数の初対面の人たちとすれちがっていますし、お店に行けば、自分のほしいものを注文したりするために初対面の店員と話をしなければなりませんし、学生は入学、クラス替えなどがめぐってくると、大いに初対面の人と話す機会が増大しますし、商売をやっている人は、初対面の人とコミュニケーションをすることは必須のスキルです。また、最近のソーシャルメディアの発展にともなって、インターネット上で初対面の人と会う機会が増大しているのも事実です。
このように、初対面の人と話すことを避けるのが難しい現代社会において、もしあなたが初対面の人と話すのが苦手だということであれば、それをそのままにしておくのは、あまり生産的であるとはいえないでしょう。
そこで、今回は、初対面の人と話すことが苦手で苦しんでいるあなたが少しでも楽になるための秘訣をお話ししたいと思っています。
誰でも初対面の人は苦手であり、得意でもある?!
実は、何を隠そう、わたしは、初対面の人と話すのがとても怖い人間でした。初対面の人と話そうとしても、不安や恐怖が先に立ってしまうことが結構あったのです。
しかし、誰でも自分の優先順位の高い領域では、初対面の人であっても比較的かまえないで話しができるということに気がついてから、かなり気持ちが楽になりました。
どういうことかというと、私たち一人ひとりは誰でも異なった優先順位をもって生きているわけですが、自分にとって優先順位が高く得意分野で出会う初対面の人であれば、他の領域で出会う初対面の人とはちがって、結構抵抗なく話せるということです。
私にとって優先事項の高い領域は、職場である学校であり、愛する家族のいる家庭であり、ディマティーニ・メソッドの領域です。そういう場面であれば、初対面の生徒であっても、保護者であっても、娘の友達の親であっても、あるいは、初対面のクライアントさんであっても、「教師」として、「父親」として、「ファシリテーター」として、話すことには不安も恐怖もないといっていいでしょう。
しかし、自分にとって優先事項の低い領域、たとえば、私の場合、身体・健康の領域は他の領域に比べれば、優先事項が若干低いかもしれません。そういった領域では、エクササイズをがんばっている人と話すことは苦手に感じますし、自分からすすんでフィットネスクラブに入ろうとも思いません。。。。
つまり、人間にとって、優先順位の高い領域であれば、初対面でも話しかけやすくなり、優先順位の低い領域であれば、初対面の人に話しかけにくいということなのです。つまり、誰でも、初対面の人は苦手であり、得意でもあるというのはこのことです。
だから、もしあなたが初対面の人と話すのが苦手と思い込んでいるのなら、自分の生活領域のどこで、初対面の人と普通に話せるかを発見してみることをおすすめします。この宇宙のすべてはバランスから成り立っているので、私たち人間にも必ず両面があります。今回の例でいえば、初対面の人に苦手だけの人はいませんし、逆に、初対面の人が得意だけの人もいません。
優先順位の低い人たちとでも話すことはできる!
では、私たちにとって優先事項の低い領域では、未来永劫、初対面の人と話すのは怖いことであり背負っていかなければいけないのでしょうか?
答えはノーです。
よく日常生活を見渡してみると、別に最優先事項の領域ではなくても、初対面の人と話せる場面が結構あることに気づきます。
たとえば、
自分が「病人」であるとき、
自分が「迷子」であるとき、
自分が「客」であるとき、
自分が「人に迷惑をかけた」と思ったとき、
自分が「本当に困っている」とき、
自分が「酔っ払い」のとき、
などには、わりと不安も恐怖も無く、初対面の人と話すことができるのではないだろうか。では、なぜこうした領域では、かりに優先順位が低くても初対面の人と話ができるのだろうか?
それは、そういう特別な状況になったとき、自然と無意識のうちに自分の中の優先順位の高いことに結び付けているからではないでしょうか? たとえば、病人であるときは、命を守るということが高い価値をもつようになりますし、迷子になったときは目的地に到着することが優先事項が高くなりますし、客であるときは自分のほしいものを買うことの優先順位が高くなります。言い換えれば、それらの状態は、様々な形で欠乏感を抱いている状態(例:病気=健康の欠乏、迷子=明確な道案内の欠乏、客=ほしいものを欠乏している)ともいえるわけで、そうした自分の欠乏感を満たすことに関しては高いエネルギーを使える状態になるので、その結果、初対面の人であっても比較的容易に話しかけやすくなるのではないでしょうか?
「なるほど、そういう特別な状態になれば、初対面でも話せるということはわかった。でも、私は商売上嫌いなタイプの初対面の人とも話さなければいけないけど、それが苦手でたまらないの」という意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
その場合は、先ほど述べたような特別な状況がくるまで待つのではなく、自分から意識的に初対面の人と話すことが、自分の最優先事項にどのようなメリットをもたらすのかを自分に何度も問いかけて答えることが必要ではないでしょうか? 初対面の人と話すのが苦手な理由の第一は、初対面の人と話すことのメリットが見えないということがあると思います。だとしたら、一般論ではなく自分にとって初対面の人と話すことがどのようなメリットをもたらすかを発見する必要があるでしょう。
「初対面の人」に対する恐怖をどのように払拭するか?
では、以前、「初対面の人」とのコミュニケーションに失敗して、それが「トラウマ」のようになってしまっている場合はどうしたらいいでしょうか?
たとえば、取引先で初対面なのに失敗をしてしまった、一目ぼれの彼女にあっけなく振られてしまった、初めて来店したお客さんを怒らせてしまった、など、色々なケースがあるでしょう。
そういう場合も忘れないでいただきたいキーワードは先ほども少しふれた「バランス」です。つまり、すべての出来事には必ず二面性があるので、初対面の人に対して経験した「失敗」にも必ずメリットも存在するのです。それはあなたにとってのメリットだけではなく、初対面の相手にとってのメリットも必ずあります。
具体的に、メリットを発見するときは、初対面で「失敗」したことで、(1)自分にとって大切なものを守ることができたのではないか、変えなくてもよかったのではないか、(2)逆に、自分にとって何かを変えることができてそれがメリットになっているのではないか、(3)何らかの形で自己重要感が高まったのではないか、(4)他の誰かとの出会いやつながりが強化されたのではないか、(5)何らかの意味で自分が成長できたのではないか、(6)何かに貢献することにつながっているのではないか、など、様々な形で質問するとよいでしょう。
そして、自分の人生の最優先事項にどのようなメリットを与えるかということも明確にしてみてください。
そして、これらと同じ質問を「初対面の人」に置き換えて考えてみることもしてみるとなおいいでしょう。たとえば、初対面の人に恥をかかせてしまったと思っている場合は、初対面の人にデメリットしか与えていないという幻想を抱いているということですから、一方で、その人にどのようなメリットを与えているのかということを発見すればいいのです。
メリットを発見する際に注意していただきたいのは、いったん、人の目や他人の価値観をわきにおいて、自分の価値観に正直になってメリットを見つけるということです。他の人の価値観のフィルターを通していると、何百個メリットを見つけても、心が晴れることはないでしょう。
「初対面の人」とかかわりを持てず「孤独」を感じたらどうしたらいいか?
「でも、そういうケースはネガティブな形であっても初対面の人と何らかのかかわりがあった上でのことでしょう? 私の場合は、新しい学校に転校して、初対面の人ばかりの中で、かかわりをもてず、孤独を感じているんです。そういう場合はどうしたらいいでしょうか?」という思いの方もいらっしゃるかもしれません。
ここで私が「現代の哲人」と呼ばれるDrディマティーニから学んだ言葉をご紹介します。
「宇宙では何も失われていない(Nothing is missing in the universe)」(Drディマティーニ)
つまり、どういうことかというと、私たちの日常感覚では、物事を「あるかないか」の二元論でとらえがちですが、実際には宇宙のすべてはエネルギーであり、エネルギーは消滅したりすることはなく常に形を変えて存在しているという「エネルギー保存の法則」にもとづいているので、何かを失ったかのように見えても、それは別の形で獲得されているという意味です。
ですから、もしあなたが「初対面」の人に囲まれて「孤独」を感じているとしても、それは幻想で、あなたが望んでいる「新しい友達」は別の何らかの形で存在しているといえるのです。それはクラスの中でまだ口を聞いていないだけであなたと友達になってみたいと思っている人かもしれませんし、新しい学校の先生が「新しい友達」であるのかもしれませんし、テレビや雑誌で見た新しいアイドルがあなたにとっては「新しい友達」かもしれません。
「え、それって、どうなのかなあ。友達がいないのと同じじゃないの?」
もしそう思うようでしたら、今現在の形での「友達」関係ではなく、実際に言葉をかけあう形の友達をつくる行動を起こせばいいわけです。
「でも、それが怖いから孤独なんじゃん!」
わかりました。その場合は、先ほども述べたように自分から声をかけるメリットをたくさん発見してみてください。そして、その際には、「相手から断られた場合」「馬鹿にされた場合」のメリットもあわせて発見することを忘れずに。
「相手から断られるメリット?」
そうです。そのように一見メリットがないような状況においても、先ほど述べた宇宙のバランスは働いています。特に、宇宙はサポートとチャレンジを同時にもたらすという特徴がありますので、あなたが誰かから拒絶された瞬間には、必ずあなたのことを受け入れてくれる人が必ず例外なく存在するのです。
そうしたバランスを心に獲得すれば、あなたは「初対面の人」に断れても大丈夫なわけですから、自分から声をかける一歩を踏み出せるのではないでしょうか。
「初対面の聴衆」の前で話すにはどうしたらいいか?
あと、「初対面」が苦手というセッティングの一つには、人前で話す、すなわち、聴衆の前で話すというのがあると思います。文字通り大勢の全くの「初対面の人たち」の前で話すのですから、一対一の「初対面」を苦手としている人にとっては、「地獄」かもしれません。
でも、大丈夫です。「人前で話す」ということにはある克服すべき課題が含まれているということであり、そこを解消すれば大丈夫なのです。
以前、Drディマティーニのセミナーに参加したときのことです。会場に「人前で話すことが苦手」だという青年がいました。Drディマティーニは舞台の上にその青年に来るようにいいました。普通のポジティブ思考系のセミナーであれば、身体の動きを変えたり、アファーメーションを使ったり、大きな音楽で盛り上げたり、気合をいれるようなことをしたかもしれません。
でも、Drディマティーニは、その青年にいいました。
「この会場をゆっくり見渡してほしい。そして、この中で自分の苦手とするタイプの人がいるはずだ。自分がもっとも苦手と感じる人を選んでほしい」といいました。
つまり、公衆の面前で話すということは、漠然と「大勢の前で話すのが苦手」ということではなく、実は特定のあるタイプの人の前で話すのが苦手という意味だということです。たとえば、大人たちの前では緊張しても、子どもたちの前では緊張しない人っていますよね。
その青年は会場の中の、50代くらいの知的な雰囲気のする女性を指差しました。そして、実は以前、面接試験で、同じ年くらいの知的な感じのする面接官の女性から学歴についてかなりきつい質問をされて落ち込んだ経験があったことを告白しました。それ以降、彼は50代くらいの知的な雰囲気をもった女性の前では萎縮するようになってしまっていたようでした。
この青年は明らかにアンバランスな認識をもっていたので、Drディマティーニは数多くの質問をはじめました。その結果、その青年は、その面接官の女性からそういう質問をされたことで得られたメリットを発見したり、自分が劣等感を感じた瞬間に自分を優秀だと心の底から思ってくれた人々を発見したり、また、自分にはないと思っていた「高学歴」の特徴が自分にも十分に備わっているということを発見するなどして、完全にバランスを取り戻していきました。
その結果、彼は舞台の上で一切緊張することなく聴衆に向かって話をすることができるようになったのです。しかもジョークをいうような余裕も見せて。
このようにみると、「初対面恐怖症」は、「劣等感」などの「自己卑下」や「自己矮小化」と深くかかわっていることが見えてきます。これは外国語での会話でもいえることですが、相手に対して自分を低く見積もっていると、うまく言葉が出てこず円滑な会話をすることができなくなります。また一方で、相手を過剰に低く見て、自分に対して極端な優越意識や自惚れをもっていると、相手がそれを察して、これもコミュニケーションがうまくいかなかったりします。初対面の人に対しては、相手を過剰に大きくして自分を小さくする必要もなく、一方で、人工的なアファーメーションなどを使って自分を大きく見せたりする必要はなく、やはり、ニュートラルなありのままの自分であることが、円滑なコミュニケーションをする一つのキーであると思われます。
「初対面」は幻想?!
最後にもう一つ。これまで「初対面」について論じてきましたが、実はそもそも「初対面」というのは幻想であるということです。
Drディマティーニによれば、私たち一人ひとりの中には全人類に共通な4600以上の特徴が独特な形で誰でも備わっています。たとえば、あかるい、暗い、親切、残酷、親切、不親切、まじめ、ふまじめ、かわいい、かわいくない、きれい、みにくい、かっこいい、かっこわるい、などが誰の中にでも独特な形でそなわっているというわけです。
つまり、目の前の人間があなたと全く異なる世界の人間に思えたとしても、あなたの中には目の前の人と全く同じ特徴を見出すことができますし、一方で、相手も自分の中にあなたの特徴をすべて発見することができるのです。
日常感覚ではなかなかわかりにくいことかもしれませんが、本質的なレベルでは、私たちはお互いに鏡のように反映した存在であり、根源的なレベルでは、誰一人としてあなたと異なった人間はいないのです。その意味で、あなたが出会う人はすべてあなたであり、「初対面」の人は実は誰もいないのです。
まとめ
今回は、初対面の人と話すことを「苦手」としていらっしゃる方のことを念頭に書かせていただきました。
ポイントは、
- 誰でも自分の優先順位の高い領域では初対面の人と話しやすい傾向にある
- 誰でも自分の優先順位の低い領域では初対面の人とは話しにくい傾向にある
- 優先順位の低い領域でに、自分の最優先事項とリンクさせれば初対面の人と話しやすくなる可能性があがる
- 初対面の人と話す恐怖を払拭するには、拒絶された場合も含めてメリットを十分に発見することが大切
- 初対面の人に囲まれて「孤独」を感じたときは、今自分がどのような形で「新しい友達」を獲得しているかを発見するといい。
- 初対面の聴衆の前で話す前に、自分が特に苦手とするタイプを明確にして、そのタイプについてバランスをとることで苦手意識を克服しておくといい。
- 自分を過小評価したり、過大に見せることなく、ニュートラルなありのままの自分でいることが円滑なコミュニケーションの要。
- あなたが出会う人はすべて「あなた」であり、根源的なレベルでは「初対面」の人はいない。
ということになります。
あなたの何かの参考になれば幸いです。
今回も読んでくださって、ありがとうございました。
オーストラリアより愛と感謝をこめて、
野中恒宏